(この記事は長いので前半と後半に分けました)
コミュニティー
それにしても、確かにすべてがバラ色だったわけではない。2011 年はチャレンジがいくつもあった年でもある。それは特にコア開発チームでいえることだった。僕たちは確かに苦闘した。Drupal コアの開発フェーズ(設計、開発、テスト、運用などの工程の1つ)が2年近くなかったこともあって、モラル(価値観)の問題で苦しんだ。「公式」のイニシアチブとコミュニティーのイニシアチブとの関係についてのさまざまな誤解もあった。新しい機能を加えることと既存の技術的な「負債」(マイナス ポイント)を片付けることのバランスでも悩んだ。もっと存在にかかわるような質問さえもあった。「Drupal は1つの製品なのか、フレームワークなのか?」、「Drupal はページ ジェネレーター(Web ページ自動作成システム)なのか、REST サーバーなのか?」といった問いだ。
この「成長痛」の多くは普通にあるものだ(珍しいものではない)。アクティブなコントリビューターの数でいえば、僕たちは最大のオープンソース プロジェクトとはいえないにしても今や最大級の1つだ。それだけの成長になると、僕たちの作業の仕方も(それに合わせて)発展させる必要が出てくる。僕たちは、100% ボランティアで動いていたモデルから、法人の関与と影響が徐々に増してくるモデルへと成長した。このモデルは世間ではべつに新しいものではない。ボランティアベースのプロジェクトでも、商業的な関与を促進する必要が出てくるときが来るものだ。それは、そのプロジェクトを前進させ、競争力をつけるためで、いちばんいい例が Linux だ。Red Hat、IBM、Dell なしに今日の Linux は存在しなかっただろう。僕たちにとって 2012 年最大のチャレンジの1つは、コミュニティーの需要や要望を尊重しながらも、もっと多くの商業的な組織がもっと大きな規模で Drupal の開発にかかわってくるようにする方法を見つけ出すことだ。
僕は 2012 年もたくさん普及活動に努めたいとは思っているが、「振り子」は振り戻さなくてはならないと感じている(片側に振れたあとは反対側にも振れる必要がある)。(だから)時間の使い方のバランスを再検討して、もっと Drupal 8 と Drupal コミュニティーにフォーカスを当てたい。前述した「成長痛」を克服するのに集中した時間とエネルギーを使うためだ。
ただし、ひとつのコミュニティーとして、僕たちは普及活動を忘れないようにするべきだろう。それは多くの人々が協力できることだ。僕がときどきフラストレーションを感じるのは、千人近い人々が3年間かけて Drupal 7 の作業をし、こんなにいろいろとすばらしいことを成し遂げたのに、僕たちはそれを世間にきちんと伝えていないということだ。それも、Drupal は他(の CMS)と比べると使いにくいという評判が何年もの間にできあがってしまっているから、なおさらだ。Drupal 7 では、その(使いにくいとされている点の)多くが変わっているのに(世間の)人々が Drupal について話したり考えたりするのを見ると、そうした変化が必ずしも反映されていない。これを変えるには、僕たちが Drupal 7 に加えた、あれだけのすばらしい改善の数々をみんなに教え続ける必要がある。そして、以前、Drupal をあきらめた人たちに対して、もう一度 Drupal を試してみるように勧めるのだ。Drupal 7 は Drupal 6 と比べたら途方もなく前進しているのだから。
全体として、僕はこうしたチャレンジを僕たちが克服できると確信している。コミュニティーやコア開発チームを構成するみんなを僕は本当に信じているし、難しい問題を切り抜けようと協力する能力も僕たちにはあると信じている。結果として、最終的に Drupal は一層よくなるだろう。そして、2012 年の終わりには、また違ったチャレンジがあることだろう。
2012 年に関する他の予測
以下、上述した予測や予定に加えてさらにいくつか予測を挙げてみよう。
- Drupal の人気が上がるにつれて Drupal にかかわる開発者やショップ(Drupal 業者)の数も増え、Drupal エコシステムも全体としてかなり拡大するだろう。ただ、その結果として、マーケティングに投資しない会社は個別のケースとして実際には顧客が減る危険がないともいえない。マーケティングは 2012 年のビジネス コミュニティーにとってより大きな焦点となるだろう。
- 僕は 2012 年が Drupal 企業家/起業家の年になることを願っている。Pantheon、Drupal Commerce、Tag1 Consulting など、特定の面に専門化した Drupal 企業は 2011 年に大きく成功したり展望を大きく広げたりした(要するに専門化とはマーケティングの一形態だということだ)。それでも、埋めることのできるニッチ(市場のすき間)はまだたくさんあるし、いくつもの企業が入れるだけの十分な広さがあるニッチも多い ―― このことを僕たちはときどき忘れてしまうようだ。Drupal コミュニティー内で起業家精神をもった人々に是非もっと多く出会ってみたい(コミュニティーのメンバーが起業するのも起業家が外からコミュニティーに入るのも歓迎という意味)。
- もう一つ、2012 年に僕が出会ってみたいのは Drupal に取り組む若者たちだ。これは Drupal の成功度を測る目安にしている。僕たち古い連中の一部は今、子育てで忙しいし(^-^)。コミュニティー内に若い人たちからの新しい活発なエネルギーがあることが、すばらしいコミュニティーである品質証明になる。
- 僕は、かつてなかったほど多くのディストリビューションが作られるだろうと予測する。もっとも、ディストリビューションのビジネス モデルについては、まだ正解が見つかっていない。これは重要なことだ。というのも、ディストリビューションは作るのにも保持するのにもコストがかかるからだ。ディストリビューションの周辺としてはサポート ビジネス モデルで初期牽引(early traction)が見えているところだ。ただ、2012 年には、みんな、もっとクライアント/サーバー モデルでいろいろと試してみるようになるのではないかと僕は思う。つまり、ホスティングされたさまざまな種類のサービスを売るための一方法としてディストリビューションを使うようになるだろうということだ。
- 世間の人々が Drupal に対する競合ソリューションを選択する一番の理由はまだユーザビリティーだ。それは(Drupal の)既存の機能が使いにくいからではない(Drupal 7 ではユーザビリティーが大幅に改善された)。リリース状態(out-of-the-box)の機能が足りないからだ。たとえば、コンテンツ ワークフローとコンテンツ ステージング ツール、正確なコンテンツ プレビュー、WYSIWYG エディター、メディアの取り扱い、スケジューリングといったものだ。しかし、これらの面の多くでは、複数の企業が大量のリソース(人的および経済的な資源)を投入することなしには、目立った作業がなされることはほとんどないだろうと僕は予測する。いずれにしても、僕たちは Drupal コアを小さくしようとしながらも(実質的に)大きくする必要があるだろう。
- 僕たちは、純粋な Web の世界から、モバイル アプリケーションがどんどん増えている世界へと進んでいる。それは Web サイトと Web アプリケーションのある、もっと多様な世界だ。現在の Web サイト開発者たちは、いやが応でもそれに適応させられることになるだろう。幸い、Drupal はこれに対処する準備が整っている。Drupal 7 の拡張モジュール(contrib)も、Drupal 8 のコアもだ。多くの Drupal ショップはモバイル Drupal の世界における強力なプレーヤーとして自ら新たな位置づけをすることになるだろうとも予測しよう。
- 誰かが Druplicon(Drupal のロゴ)の形をした熱気球を飛ばすだろう。
Drupal はすばらしい成功であり、楽しいプロジェクトでもある。この Drupal を作るために一生懸命、熱烈に取り組んでいる多くのコミュニティー メンバーに対して、締めくくりは誠実な、心からの「ありがとう!」で結びたいと思う。僕からただ、みんなに言わせて欲しい。今日の Drupal を作ってくれたこと、そして、Drupal をよりよいものにするため、僕と一緒に一日一日とやってきてくれたことに対して、「みんなには感動している!2012 年に乾杯!」と。